フィクションの中の看護師

世間一般にイメージされる看護師の姿はドラマや漫画といったフィクションに基づいている事も多いようです。普通の健康状態の人であれば、病院で実際に本物の看護師を目にするよりも、テレビドラマや漫画の中で看護師を見かけることの方が多いくらいでしょう。

新人看護師の志望動機にも「実際に自分が病気の時に対応してくれた看護師さんにあこがれて」とか「家族や親類に看護師がいて」と本物の看護師を目にした経験から自分も看護師を目指すという理由もよく聞かれますが、「自分が好きなドラマや漫画に出てくるナースにあこがれて」という新人も意外と多くいます。

現代ではテレビなどメディアの情報は頻繁に目にする上、影響力も大きいので、体調を崩したときくらいしか病院には行かないという人には本物の看護師よりもフィクションの看護師の方がお馴染みになっているかもしれません。

それに、えてしてフィクションに出てくるナースはかなり理想的な姿をしています。演じている女優さんのイメージも相まって「素敵」「元気」「明るい」といった印象を強く受けがちです。看護師を描いた作品の中では大変な思いをしながらも前向きで頑張っている姿が描写され、時にはエリート医師との恋愛などもあって実に魅力的な職業に見えます。

他にも、フィクションにはフィクションならではの看護師が登場します。例えば、服装一つ取ってみても、現在ではナースキャップをかぶっている病院はほとんどありません。これは、衛生上の問題や、器具などに接触する危険があるためですが、いわゆる「キャラクター的なナース」などは必ずと言っていいほどナースキャップをかぶっています。最近のドラマではナースキャップをかぶっていない事も多くなっていますが、「看護師といえばナースキャップ」というイメージも根強く残っています。

さらに、ドラマや漫画の中の看護師が丈の短いミニスカートのようなナース服を着ていることもありますが、あんな格好で実際の仕事をすれば病院内であられもない格好をさらすことになってしまいます。それ以外の細々した事でも、本職の看護師からしたら「そんなわけあるかぁ!」と思わず突っ込んでしまいたくなるような設定がたくさんあります。

そういう姿はあくまでフィクションであり、視聴者向けのわかりやすい演出だったりするわけですが、それを見慣れた一般人にとってみれば、そのフィクションこそが「現実のナース」であり「理想の姿」になってしまっているのです。

しかし、実際の看護師はそんなに派手な仕事でもなく、毎日ストレスと戦うような厳しい日々を送っています。フィクションでは決して描かれない、疲れた表情で勤務に向かう姿や、締め切り間近で泣きながらレポートを書いている姿が現実の看護師にはあるのです。しかし、目には見えない苦労を抱えながら懸命に医療業務をこなしていけば、イメージされる「理想のナース」よりももっと深い意味で魅力的な人間になっていることには間違いないでしょう。

もちろん、ドラマなどに出てくる看護師にあこがれて自分も看護師になるのは悪いことではありませんが、フィクションはフィクションと思っていなければ後で痛い目にあうかもしれません。